ブルーノ・シュルツの「肉桂色の店」を読みました。連作短編集の形をとっていて、とにかく修飾語が多く(多すぎてそれが何を修飾してるのか、はたして修飾語なのかどうかもわからなくなる)、幻想的なイメージで溺れてしまいます。美しすぎて息苦しいというか。小説というよりは散文詩に近いかも。(町を麻痺させる無限の倦怠にただひとり戦いを挑んだ)父と、なぜか父に対して絶対的な権力を持って、父の奇行をことごとく粉砕する女中のアデラと、語り手である少年(シュルツ)を中心に、とにかくイメージで語り倒す様は圧巻で、ため息が漏れます。でも後半は重すぎて正直しんどかった。メモリの容量が足りなかった感じ。でも読み返してしまう。なんじゃこりゃ。エンデとカフカボルヘスを足して、割らないがためにバランスを崩したというか。


この人は1892年生まれで1940年死去のユダヤポーランド人ということで、これだけで人生が困難だったことは予想できるんだけど、やはりかなり苦しい人生を送っております。いやいや美術教師をやりながら、この「肉桂色の店」と「クレプシドラ・サナトリウム」という2つの短編集を出すけど、それによる収入はほぼゼロ。一攫千金を狙い宝くじの研究をしていて、結局当たらないんだけど、書簡などからかなり怨念めいたものが伺えます。学業は病身と家庭の収入の事情で諦め、相次いで家族の死去、戦争の勃発、ユダヤ人迫害とろくでもないことが立て続けに起きて、「〜恋人もなく、詩神もなく日夜を送って、不毛のうちに衰えていくのです〜(略)〜人性のうちの何一つわたしの手元に残らない〜」なんて手紙を書いております。そして結局無差別ユダヤ人殺戮に遭遇してしまい、ゲシュタポに射殺されてしまいます。享年50歳。

若くして成功して、もうこれ以上幸せになれないとかいって泣いている同年代のフィッツジェラルドみたいな作家と比べると、さらに考えるところがございます。

(は)

シュルツ全小説 (平凡社ライブラリー)

シュルツ全小説 (平凡社ライブラリー)